木星の幾何学

ここでは、木星の幾何学形状を回転楕円体で近似できるものと仮定する。また、木星を無限遠の距離から見ているものと仮定し、地球からの視線は全て平行であるものとする。

木星の幾何学的パラメータは、

赤道半径71,398,000 m
極半径66,770,000 m

とする。

回転楕円体の方程式

原点を中心とする回転楕円体の方程式は、

\[ \frac{x'^2}{a^2}+\frac{y'^2}{b^2}+\frac{z'^2}{a^2}=1 \tag{1} \]
\(a\)
長半径
\(b\)
短半径

ここでは、\(y'\) 軸を北極方向(自転軸方向)にとることにする。\(z'\) 方向は赤道面にあり、自転軸に対して垂直な方向にとる。

(1)式を2次形式で表現すると、

\[ f(x',y',z')= \begin{pmatrix}x'&y'&z'\end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1/a^2 & 0 & 0\\ 0 & 1/b^2 & 0\\ 0 & 0 & 1/a^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix}x'\\y'\\z'\end{pmatrix} =1. \tag{2} \]
\[ f(x',y',z')=X'Q'X'^T. \tag{3} \]
\[ X'=\begin{pmatrix}x'&y'&z'\end{pmatrix}. \]

ここで、大文字は行列(またはベクトル)を表し、\(X^T\) は \(X\) の転置を表す。

(2)または(3)は回転楕円体の方程式の2次形式表現である。木星の自転軸が視線方向に対して垂直であれば、この式を使って座標の計算を行うことができるが、実際の木星は地球との相対位置によって自転軸は傾いている。

(3)にある回転させて別の座標系から見た場合の方程式も同様に表現することができる。

\[ f(x,y,z)=XQX^T. \tag{4} \]

ここでは(4)を地球から見た場合の回転楕円体の方程式とすることにする。視線方向を \(z\) 軸にとり、\(y\) 軸を自転軸方向(北極方向)にとる。\(x\) 軸は視線方向と自転軸とに垂直な方向となる。北極を上にした惑星画像で、右側が \(x\) 軸、上が \(y\) 軸となるので感覚的にわかりやすいと思う。\(x\) 軸を回転軸にして(3)式を回転させたものが(4)式と考えればよいだろう。回転させただけなので、どちらも幾何学的形状は同じである。

座標変換

惑星画像データの解析でまず必要なのは、画像上の座標から、惑星面上の経度、緯度の情報を得ることである。上の関係式を使って両者の変換を行う式を導く。直交座標系では、\((x,y,z)\rightarrow(x',y',z')\) の変換を行うことになる。

\(R\) を \(x\) 軸について回転させる回転行列とすると、我々の見ている座標系では、\(X'\) を回転させた \(X\) という座標表現になる。

\[ X^T=RX'^T \qquad \text{or} \qquad X=X'R^T. \tag{5} \]

と表現することができる。この(5)式の関係を(4)へ代入すると、

\[ X'R^TQ\left(X'R^T\right)^T=1. \tag{6} \]

ここで、公式 \((AB)^T=B^TA^T\) を用いて、

\[ X'\underbrace{R^TQR}_{Q'}X'^T=1. \]

(3)と比較すれば下線部が \(Q'\) であることがわかる。これより、

\[ Q'=R^TQR \tag{7} \]

が得られる。\(Q'\) は地球から見た(\(x\) 軸について回転させた)惑星の2次形式で表現した回転楕円体の係数行列である。

\(Q'\) は(2)によって与えられているので、これを使って \(Q\) を得ることを考える。これは(7)を \(Q\) について解くことによって得られる。左から \(R\)、右から \(R^T\) を掛けると、

\[ \begin{aligned} RQ'R^T &=R\left(R^TQR\right)R^T\\ &=\underbrace{(RR^T)}_{I}\,Q\,\underbrace{(RR^T)}_{I}\\ &=Q, \end{aligned} \]

ここで \(RR^T=I\)(\(I\):単位行列)である。よって、

\[ Q=RQ'R^T. \tag{8} \]

(8)式は(7)の逆変換である。

ここで、\(x\) 軸についての回転行列 \(R\) は、

\[ R= \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&\cos D_e&-\sin D_e\\ 0&\sin D_e&\cos D_e \end{pmatrix}. \tag{9} \]

\(D_e\):木星の赤道面の視線方向に対する傾き。天体暦等から得る。

画像座標から木星面上の座標へ

画像上の \((x,y)\) 座標から木星の経緯度を求めることは、地球から見た木星回転楕円体の方程式

\[ XQX^T=1 \tag{10} \]

を視線

\[ (x\;y\;z)=(x_o\;y_o\;z_o) \tag{11} \]

について解くことである。すなわち(10),(11)の交点を求めることである。交点 \((x,y,z)\) が求まったら、

\[ X'^T=R^TX^T \qquad \text{or} \qquad X'=XR \tag{12} \]

を用いて \((x,y,z)\) を \((x',y',z')\) 座標系に変換し、最後に経緯度 \((\lambda,\phi)\) に変換する。

まず準備として、地球から見た回転楕円体の係数行列を求める。(8)より、

\[ \begin{aligned} Q&=RQ'R^T\\[0.4em] &= \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&\cos D_e&-\sin D_e\\ 0&\sin D_e&\cos D_e \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1/a^2&0&0\\ 0&1/b^2&0\\ 0&0&1/a^2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&\cos D_e&\sin D_e\\ 0&-\sin D_e&\cos D_e \end{pmatrix}. \end{aligned} \tag{13} \]

木星画像上の求めたい座標を \((x_o,y_o,z_o)\) とする。これを(13)へ代入すると、

\[ \begin{pmatrix}x_o&y_o&z_o\end{pmatrix} Q \begin{pmatrix}x_o&y_o&z_o\end{pmatrix}^{T}=1. \tag{14} \]

\(x_o,y_o\) は画像から測定した座標そのもので既知である。ここで未知数は \(z_o\) だけである。(14)式を解くことによって \(z_o\) が得られる。(14)式は2次方程式なので、解は次のようになる。

虚根
\((x_o,y_o)\) は木星の外側
重根
\((x_o,y_o)\) は木星の縁
2根
\(z_o>0\) の場合は表側、\(z_o<0\) の場合は裏側

ここで我々が見ているのは表側なので、最後の場合の2根のうち、\(z_o>0\) となる根を採用することになる。

計算機プログラムを組みやすくするために、(13)式を分解すると、

\[ Ax_o^2+By_o^2+2Cz_oy_o+Dz_o^2-1=0. \tag{15} \]
\[ \begin{aligned} A&=\frac{1}{a^2},\\ B&=\frac{\cos^2D_e}{b^2}+\frac{\sin^2D_e}{a^2},\\ C&=\frac{\cos D_e\sin D_e}{b^2}-\frac{\cos D_e\sin D_e}{a^2},\\ D&=\frac{\sin^2D_e}{b^2}+\frac{\cos^2D_e}{a^2}. \end{aligned} \]

さらに、

\[ \begin{aligned} E&=Ax_o^2+By_o^2-1,\\ F&=Cy_o \end{aligned} \]

ここでの \(A,B,C,D,E,F\) は行列ではない。

とおくと、

\[ Dz_o^2+2Fz_o+E=0 \tag{16} \]

という2次方程式になる。これより根は、

\[ z_o=\frac{-F\pm\sqrt{F^2-DE}}{D}. \tag{17} \]

画像から測定した2次元座標 \((x_o,y_o)\) と合わせて、\((x_o,y_o,z_o)\) が得られたことになる。\(x_o,y_o\) は画像のピクセル単位でかまわない。この座標を(12)式を用いて変換すると、

\[ (x'\;y'\;z')=(x_o\;y_o\;z_o)R \tag{18} \]

が得られる。\((x',y',z')\) と経緯度 \((\lambda,\phi)\) の関係は、

\[ \begin{aligned} x'&=r\cos\phi\cos\lambda,\\ y'&=r\sin\phi,\\ z'&=r\cos\phi\sin\lambda \end{aligned} \tag{19} \]
\[ r=\sqrt{x'^2+y'^2+z'^2}. \]

である。これより、

\[ \begin{aligned} \lambda&=\operatorname{atan2}(z',x'),\\ \phi&=\arcsin\left(\frac{y'}{r}\right) \end{aligned} \tag{20} \]

で経緯度が得られる。この経度 \(\lambda\) は木星の西の端(北を上にして右側)を経度0度とした西経となっていることに注意する必要がある。東洋に住む日本人から見れば経度の増える方向が逆である。(15)式以降をプログラムにすれば画像から木星面上の経緯度を求めることができる。

こうして得られた緯度は、木心緯度(Jovicentric latitude または planetocentric latitude)である。通常使われている緯度は、木理学的緯度(Jovigraphic latitude または planetographic latitude)である。木理学的緯度 \(\phi_g\) への変換は、

\[ \phi_g=\arctan\left[\left(\frac{R_e}{R_p}\right)^2\tan\phi\right] \]

によって得られる。

観測時刻における木星の中央子午線経度がわかれば、測定した座標の絶対経度に直すことができる。